水田から生まれる価値:ベトナムAWD農法がJCMクレジット市場にもたらす新潮流

Green Carbonが韓国KIHと組み、ベトナム・ゲアン省で水田の間断灌漑技術を使ったJCMクレジット創出に乗り出した。日本政府が推進する二国間クレジット制度を活用し、メタン排出削減を定量化して収益に変える試みだ。農業という「生産を止められない領域」で脱炭素を収益化する動きは、食料安全保障と気候対策を両立させる新しいモデルとして注目に値する。

参考: Green Carbon、ベトナム・ゲアン省でJCMクレジット創出のAWDプロジェクトを開始(PR TIMES)

分析・見解

常時湛水をやめるだけの技術に「稼ぐ仕組み」を足した

このプロジェクトの中心にあるのは、AWD(交互湛水乾燥)という技術だ。すでに実証されている農法を、JCM(二国間クレジット制度)という政府間の枠組みで収益に変える点がポイントとなる。水田は常に水を張ったままだと酸素が少ない状態になり、メタンが発生する。AWDで途中に水を抜く工程を入れれば、この排出量を30~50%減らせる。

技術自体はさほど目新しいものではない。しかしこれまでは「環境に良い農法」で終わっていたものを、クレジット収入という経済的なうまみと結びつけた点に大きな意義がある。

ベトナムの水田750万ヘクタールが持つ削減余地

ベトナムは世界第3位の米輸出国であり、水田面積はおよそ750万ヘクタールにのぼる。仮にその1%でAWDを導入できれば、年間数十万トン規模のCO2換算の削減が見込める。

JCMだから実現した低リスクな導入とその限界

JCMは、民間主導のVCSやGold Standardとは異なる。日本政府が設備補助や技術支援を行うため、企業にとって初期投資のリスクが低いという特徴がある。一方で、JCMクレジットは日本のNDC(国が決定する貢献)達成分としてカウントされる。そのため国内市場での流通が限定的になるという側面も持つ。

日韓連携の狙いと、農家管理を支える衛星・IoT技術

Green Carbonが韓国の金融機関と組んだ点も興味深い。日韓がアジアの脱炭素金融で連携する構図は、政治的な摩擦を超えて実利を優先する動きの表れといえる。農業クレジットの最大の課題は、測定・報告・検証(MRV)の複雑さにある。だが衛星データとIoTセンサーを組み合わせれば、小規模農家を対象にした集約的なモニタリングも現実味を帯びてきた。このプロジェクトが成功すれば、東南アジア全域の稲作地帯に展開できるモデルケースとなるだろう。

ビジネスへの影響

食品メーカー・商社が得る二つの事業機会

食品メーカーや商社にとって、このプロジェクトは二つの機会を生む。一つは、サプライチェーン上流で排出削減の実績を作れることだ。Scope3(供給網全体の排出量)の削減が求められる中、調達先の農業プロセス改善は直接的な効果を持つ。もう一つは、クレジット創出支援そのものを新規事業として展開できることだ。アグリテック企業であれば、AWD導入のための水管理システムやセンサー販売に加え、クレジット化の技術支援サービスも提供できる。

農家への利益還元がプロジェクト成否を左右する

重要なのは、農家への利益還元の設計だ。クレジット収入の分配が不透明だと、農家の継続的な協力は得られない。1ヘクタールあたり年間数万円程度の追加収入が見込めれば、農家にとって技術導入の動機付けになる。

補助金活用と金融機関の新商品開発の余地

日本企業がJCMプロジェクトに参画する際は、経済産業省の「二国間クレジット取得等インフラ整備調査事業」などの補助金を活用できる。また金融機関にとっては、クレジットの将来収入を担保にした農業ファイナンスという新しい商品も検討の余地があるだろう。

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