CORSIA向けカーボンクレジット先物が5カ月ぶり高値、供給増でも需要が底堅い理由とは

ニュースの概要

航空業界向けの国際的な炭素市場制度CORSIA(国際航空のためのカーボン・オフセット及び削減スキーム)向けのカーボンクレジット先物価格が、5カ月ぶりの高値を付けた。通常であれば供給が増えるほど価格は下がりやすいが、今回はこの1週間で適格クレジットが約200万件近く新たに市場へ流通したにもかかわらず、先物価格は上昇基調を保っている。加えて2026年第3四半期には、企業が自主的に購入するボランタリーカーボンクレジットの取引量自体は減ったのに、償却(使用済みとして無効化する手続き)の件数はむしろ増えた。購入者が品質の高いクレジットに割増料金を払う姿勢を強めていることがうかがえる。

引用元: CORSIA向けカーボンクレジット先物が5カ月ぶり高値、供給増でも需要底堅く(Carbon Pulse)

分析・見解

供給が増えても崩れない価格が映す「量より質」への転換

商品市場の常識では、供給が増えれば価格は下がる。ところが今回のCORSIA向けクレジット市場では、1週間で約200万件という大きな供給増があったにもかかわらず、先物価格はむしろ5カ月ぶりの高値を付けた。これは買い手が「安ければどれでもいい」という姿勢から、CORSIAの適格基準(=国際民間航空機関が定めた認証条件)を満たす質の高いクレジットだけを選んで買う姿勢へと変わってきたことを示している。供給の「量」が増えても、買い手が求める「質」の供給が追いついていなければ、価格は下がらない。この逆相関は、炭素市場が投機的な需給ゲームから、実際の排出削減効果を重視する実需ベースの市場へ移行しつつある兆候と読める。

償却件数の増加が示す「使い切り」志向への転換

2026年第3四半期はボランタリークレジットの取引量が減少したにもかかわらず、償却(クレジットを実際の排出相殺として使用し、無効化する手続き)の件数は増加した。取引量と償却件数が逆方向に動くのは、クレジットを転売目的で保有する投機的な動きが減り、企業が自社の排出削減目標の達成のために早めに使い切る動きが広がっていることを意味する。言い換えれば、市場参加者の主役が「トレーダー」から「実際にクレジットを消費する企業」へとシフトしつつある。

2027年からの実質義務化フェーズを見据えた先回り需要

CORSIAは2024年からの試行フェーズを経て、2027年以降は多くの加盟国の航空会社にとって参加が事実上の義務となる段階に入る。この節目を前に、航空会社や燃料供給会社が必要なクレジットを先回りして確保しようとする動きが強まっても不思議ではない。価格が供給増にもかかわらず底堅いのは、こうした将来需要を見越した早期購入が重なっているためとも考えられる。先物市場の価格形成は、目先の需給だけでなく2〜3年先の制度変更を織り込み始めている。

認証機関ごとの品質格差が価格差を広げる

現在の炭素クレジット市場では、Verra(ヴェラ、米国の主要認証団体)やGold Standardなど認証機関ごとに審査基準が異なり、同じ「1トン分の削減効果」でも信頼度に差がある。CORSIA適格の認定を受けたクレジットは、森林破壊の回避や再生可能エネルギー由来のものなど、算定方法が厳格に検証されたものに限られる。供給が増えても高値が続く背景には、こうした認証機関間の品質格差が可視化され、質の低いクレジットとの価格差(プレミアム)がむしろ広がっている事情もあるだろう。

ビジネスへの影響

調達担当者は「安さ」より「適格性」を優先した購入戦略へ

自社の排出量をCORSIAやカーボンニュートラル目標のためにオフセットする企業の調達担当者は、今回の動きから学ぶべき点がある。価格が安いクレジットに飛びつくのではなく、CORSIA適格リストに載っているか、どの認証機関のどの方法論で算定されたクレジットかを事前に確認する姿勢が欠かせない。品質を軽視した調達は、後になって無効化されたり、企業の環境主張(グリーンウォッシュと批判されるリスク)に傷がつく恐れがある。

2027年の義務化本格化前に長期契約での確保を検討する

今回の価格上昇が制度の節目を見越した先回り需要によるものだとすれば、今後1〜2年でさらに価格が切り上がる可能性は十分にある。航空会社や荷主企業、商社の炭素クレジット担当者は、スポット購入に頼らず、複数年にわたる先渡し契約(フォワード契約)で価格と供給量をあらかじめ固定しておく選択肢を検討する価値がある。

日本の航空会社・関連企業にとっても対岸の火事ではない

ANAやJALなど日本の航空会社もCORSIAの対象であり、クレジット価格の上昇は将来のコスト増に直結する。また商社や金融機関にとっては、品質プレミアムが拡大する今の局面は、高品質クレジットの組成・仲介ビジネスの収益機会が広がっていることも意味する。投資家の視点では、認証基準が厳しいプロジェクトを手がける事業者への関心を強めておく時期といえる。

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