ガボンが森林の吸収力を国ごと売却、主権カーボンクレジットの行方

ガボンが森林の吸収力を国ごと売却、主権カーボンクレジットの行方

ニュースの概要

ガボン政府は、ドイツ国有のエネルギー企業SEFEに対し、森林が吸収する二酸化炭素を約600万トン分のクレジットとして販売することで合意した。ロイターによれば、アフリカで確認された初の主権型の森林クレジット取引である。これまで森林クレジットは民間の事業者が個別の森林で認証を取る形が中心だった。今回は国が自国の森林全体の保全成果を管理し、売り手として前面に出る。国土の大半を熱帯林が覆うガボンにとって、伐採に頼らない収入源をつくる試みでもある。買い手のSEFEは欧州向けのエネルギー供給を担う企業であり、脱炭素の説明責任を果たす手段としてクレジットを求めたとみられる。

引用元: ガボン、主権森林カーボンクレジット約600万トンをドイツ企業へ販売(Reuters)

分析・見解

国が売り手に立つことで変わる取引の構造

これまでの森林クレジットは、民間事業者が特定の森林区画で保全活動を行い、第三者機関の認証を受けて売る形が主流だった。今回は国家が自国の森林を一括して管理し、成果を国としてクレジット化する。これを主権型と呼ぶ。

最大の違いは、責任の所在である。民間事業では、ある区画を守っても隣の区画で伐採が進めば効果が打ち消される。これを漏れ(リーケージ)と呼ぶ。国全体で数えれば、この漏れを国の内側で吸収できる。買い手から見れば、見せかけの削減を買うリスクが下がる。

600万トンという規模をどう読むか

600万トンは、日本の一般家庭に換算すると百万世帯強の年間排出量にあたる。小さくはない。ただし世界の自主的炭素市場の年間取引量はおよそ数億トン規模であり、全体から見れば数パーセントに満たない。

注目すべきは量よりも、国が売り手になったという前例である。南米のガイアナは2009年からノルウェーと森林保全の対価契約を結び、のちに数億ドル規模の支払いを受けた。ただしそれは政府間の成果払いだった。今回は国営企業という買い手に、市場の商品として売る点が新しい。

信頼性が最大の争点になる

森林クレジットは、過去に水増しが指摘された分野である。実際には伐採されなかった森林まで、伐採される前提で基準線を高く置き、大量のクレジットを生んだ事例が報じられてきた。主権型では、基準線を国自身が決める。売り手が採点者を兼ねる形になるため、独立した検証の仕組みが欠かせない。

ガボンは森林率が高く、アフリカでも炭素の貯蔵量が多い国として知られる。もともと伐採が少ない国で、保全の成果をどう測るかは難しい。何もしなくても残る森をクレジットにすれば、追加性(=その取引がなければ起きなかった削減であること)が疑われる。

資金の使い道が持続性を決める

売却益が地域住民や保護区の管理に回らなければ、制度は長続きしない。収入が国庫に吸い込まれて伐採規制が緩めば、本末転倒である。資金の配分を公開できるかどうかが、次の買い手を呼べるかの分かれ目になる。欧州の買い手は、開示の厳しい規制のもとで説明を求められる。そのため売り手側にも同水準の透明性が求められていく。

ビジネスへの影響

調達先の選び方が問われる時期に入った

排出量の相殺にクレジットを使う企業は、これまで価格と量で調達先を選びがちだった。主権型が広がれば、売り手が国に変わる分、契約相手や法的な保証の枠組みも変わる。国との契約では、政権交代や政策変更で条件が揺らぐ可能性がある。契約書には、クレジットの取り消しや無効化が起きた場合の補償条項を入れておきたい。

日本企業が今すぐ確認できること

日本でもJ-クレジットや二国間クレジット制度(JCM)の活用が進んでいる。海外の森林クレジットを検討する場合は、次の三点を社内で確認してほしい。第一に、基準線の決め方が公開されているか。第二に、独立した第三者の検証を受けているか。第三に、売却益の使い道が説明されているか。

価格だけで判断すると、後から信頼性を疑われて開示資料の書き直しを迫られる恐れがある。量を絞ってでも品質の高いものを少しずつ買い、複数の産地に分散する方が安全である。

中長期では国単位の取引が選択肢になる

今回の事例が成功すれば、同じく森林を多く持つ国が追随するだろう。企業はそのとき、国単位のクレジットを調達の一部に組み込めるよう、社内の評価基準を先に整えておくと動きが速くなる。

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