炭素国境調整メカニズム
カテゴリ: 炭素取引・クレジット制度
CBAM制度
炭素国境調整メカニズム(Carbon Border Adjustment Mechanism、CBAM)は、EUが輸入品に対して炭素コストを課す革新的な制度です。2026年から本格運用が開始される予定で、グローバルな気候変動対策に大きな影響を与える政策として世界的に注目されています。
CBAMの目的
CBAMは以下の主要な目的を持っています:
- カーボンリーケージの防止:EU企業が炭素コストを避けるために生産を海外に移転することの防止
- 公平な競争条件:EU域内外の製品が同等の炭素コストを負担することによる公平性確保
- グローバルな削減促進:世界的な気候変動対策の加速と炭素価格付けの普及
- EU-ETSの保護:域内排出権取引制度の環境的整合性の維持
対象製品と品目
CBAMの対象となる主要製品は以下の通りです:
第1フェーズ対象品目(2026年~)
- 鉄鋼:粗鋼、鉄鋼製品、合金鉄など
- セメント:クリンカー、セメント製品
- アルミニウム:未鍛造アルミニウム、アルミニウム製品
- 肥料:窒素肥料、複合肥料
- 電力:EU域内への電力輸入
- 水素:グレー水素、ブルー水素
これらの品目は、炭素集約度が高く、カーボンリーケージのリスクが大きい産業として選定されています。
将来的な拡大予定
2030年以降には以下の品目への拡大が検討されています:
- 化学製品:プラスチック、有機化学品
- ガラス・セラミックス
- 紙・パルプ
- 下流製品:自動車部品、建設資材など
CBAM導入のスケジュール
移行期間(2023年10月~2025年12月)
現在実施中の移行期間では、輸入事業者は以下の義務を負います:
- 四半期ごとのCO2排出量報告:輸入品の製造過程で発生したCO2排出量の報告
- 炭素コスト支払いなし:報告義務のみで、実際の支払いは不要
- データ収集と準備:本格運用に向けた排出量算定方法の習熟
本格運用(2026年1月~)
2026年からの本格運用では、以下の制度が実施されます:
- CBAM証書の購入義務:輸入品のCO2排出量に応じた証書の購入
- 証書価格:EU-ETSの炭素価格に連動(2024年現在80~100ユーロ/トンCO2)
- 輸出国での炭素価格の控除:輸出国で既に支払った炭素コストの差し引き
- 年次報告と証書償却:毎年5月31日までに前年分の報告と証書償却
CBAMの仕組み
CBAMは以下のプロセスで運用されます:
- 輸入事業者登録:EU加盟国当局への事前登録
- 排出量算定:製品製造時の直接排出(Scope 1)と間接排出(電力使用によるScope 2)の算定
- CBAM証書購入:算定した排出量に応じた証書の購入
- 年次申告:輸入量、排出量、購入証書数の報告
- 証書償却:報告した排出量に相当する証書の償却
- 検証:第三者機関による排出量データの検証
- 製造プロセスでの化石燃料燃焼による排出
- 化学反応による排出(セメント製造時の石灰石分解など)
- フレアリングや漏洩による排出
- 製造に使用した電力の発電時排出
- 各国の電力CO2原単位または実際の電力契約に基づく算定
- 実測値:製造施設での実際の測定データ(最も正確)
- 製品固有値:特定製品の製造施設平均値
- デフォルト値:国や地域の産業平均値(最も保守的で高い値)
- EU向け輸出コスト増加:鉄鋼、化学製品などの輸出企業は追加コスト負担
- 排出量算定・報告の義務:詳細な製造プロセスのCO2排出量把握が必要
- 第三者検証コスト:排出量データの検証費用
- サプライチェーン全体の脱炭素化:原材料調達から製造までの総合的な対策
- 製造プロセス改善:エネルギー効率化、再エネ導入による排出削減
- グリーン水素活用:鉄鋼、化学産業でのグリーン水素導入検討
- 再エネ調達拡大:製造電力の再エネ化によるScope 2削減
- 排出量の把握:製造プロセス全体のCO2排出量の詳細な測定・算定
- 報告体制の構築:四半期ごとの報告に対応できる社内システムの整備
- コスト試算:2026年以降の追加コスト負担の予測
- 製造プロセスの脱炭素化:省エネ設備導入、燃料転換
- 再エネ調達拡大:太陽光PPA、グリーン電力証書の活用
- グリーン水素導入検討:特に鉄鋼、化学産業での利用
- サプライヤー脱炭素化:原材料調達先への削減要求
- 革新的技術導入:CCUS、水素還元製鉄などの実装
- グローバル生産体制見直し:低炭素地域での生産拡大
- 製品ポートフォリオ転換:低炭素製品の開発・販売強化
- 他国での類似制度検討:米国、英国、カナダなどでCBAM型制度の検討
- 輸出国の炭素価格導入:CBAM対象を避けるため独自の炭素価格制度を導入
- 国際貿易ルールへの影響:WTO整合性の議論と国際的な炭素市場の形成
- パリ協定実施の促進:各国の気候変動対策強化の圧力となる
- WTO整合性:貿易制限措置としての国際法上の扱い
- 途上国への影響:輸出依存度の高い途上国経済への配慮
- 算定の複雑性:中小企業の対応負担
- 制度の実効性:カーボンリーケージ防止の実際の効果
- 対象品目の段階的拡大:2030年代までに主要産業をカバー
- Scope 3への拡大:製品ライフサイクル全体の排出量を対象化
- 国際連携:複数地域での類似制度の相互認証
- デジタル化:ブロックチェーン技術による排出量トラッキングの高度化
炭素排出量の算定方法
CBAMでは、以下の排出量を算定する必要があります:
直接排出(Scope 1)
間接排出(Scope 2)
算定の詳細度
排出量算定には3つのレベルがあります:
日本企業への影響
CBAMは日本企業に大きな影響を与えます:
直接的影響
間接的影響
企業の対応策
日本企業がCBAMに対応するための主要な対策:
短期対策(2023~2025年)
中期対策(2026~2030年)
長期対策(2030年以降)
世界への波及効果
CBAMは世界的な気候政策に大きな影響を与えています:
課題と論点
CBAMには以下の課題も指摘されています:
今後の展望
CBAMは今後以下のように発展すると予測されます:
CBAMは、国際貿易における炭素コストの内部化という画期的な制度であり、グローバルな気候変動対策の新たな段階を示すものとして、今後の展開が注目されています。
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