ニュースの概要
オーストラリアのクリーンエネルギー規制当局(Clean Energy Regulator)は、州や準州の政府が公有の天然林の管理を見直し、炭素の貯留量を追加で増やした場合に、豪州炭素クレジット(ACCU)を発行できる新しい算定ルールを条件付きで承認した。名称はImproved Native Forest Management、略してINFMである。対象は政府が所有する天然林で、管理の変更によって上積みされた炭素だけがクレジットになる。これまで森林由来のクレジットは民間の土地所有者が中心だったが、そこに州政府という大きな供給主体が加わる可能性が出てきた。地域経済への資金還流が期待される一方で、追加性の証明が最大の課題になる。
引用元: オーストラリア、州政府が森林管理でカーボンクレジットを創出できる新制度を開始(Clean Energy Regulator via Mirage News)
分析・見解
守るだけでは足りず変えた分だけが価値になる
INFMは、州や準州が持つ天然林で管理方法を改め、炭素の貯留が増えた分にACCU(=豪州の炭素クレジット。1単位は二酸化炭素1トン相当)を出す仕組みである。要点は「追加性」だ。追加性とは、その制度がなければ起きなかった削減や吸収のことを指す。もともと伐採の予定がない森をそのまま残しても、価値は認められない。管理を変えたことによる上積みだけが対象になる。
ACCUは、大規模な排出事業者に排出の上限を課すセーフガード・メカニズムの遵守にも使われる。発行が甘ければ、国の削減目標の質まで揺らぐ。今回の承認が条件付きなのは、そのためだろう。
売り手と規制者が同じ州政府という構図
公有林の特徴は、管理者が政府自身である点にある。州政府は森の持ち主であり、同時に林業政策を決める立場でもある。ビクトリア州や西オーストラリア州は近年、公有天然林での商業伐採を終えた。すでに決めた政策の結果にクレジットを与えれば、追加性が疑われる。
そこで焦点になるのが「ベースライン」(=何もしなかった場合の想定)の置き方だ。伐採計画がいつまで続く見込みだったのかを、どこまで証拠で示せるかが問われる。
山火事と過去の批判が示す森林クレジットの弱点
森林のクレジットには弱点が二つある。第一に、本当に増えたのかが見えにくい。豪州では植生再生を対象とした別の方法論に対し、研究者や元関係者から実効性への疑問が出た。2022年の独立レビューを経て、制度の信頼回復が課題になってきた。第二に、貯留した炭素が戻ってしまう危険である。2019年から2020年の「ブラックサマー」では広い森林が燃えた。既存の制度には、リスクに備えて一部のクレジットを差し引く保険のような仕組みがある。天然林にどう当てはめるかは重要な論点だ。
木材から炭素へ、州財政の稼ぎ方が変わる
独自の視点として、この制度は林業からの出口戦略の資金源になりうる。伐採をやめた州は、税収や雇用の穴をどう埋めるかに悩む。クレジット収入が森林管理や地域の再訓練費に回れば、政策転換の痛みは和らぐ。衛星画像やレーザー測量で炭素量を測る費用が下がり、広大な公有林でも検証できる素地が整ってきたことも追い風だ。
ただし供給が増えれば、ACCUの価格に下押し圧力がかかるかもしれない。量がまだ見えない以上、市場は最終版の中身を見て反応するだろう。
ビジネスへの影響
買い手は方法論ごとに品質を点検する
ACCUを調達する企業は、「森林由来」と一括りにせず、方法論ごとに中身を確認したい。見るべき点は四つある。ベースラインの根拠、永続性(=炭素が長く留まる保証)の期間、保険として差し引かれる割合、第三者による検証だ。契約には、クレジットが後から取り消された場合に代わりの量を渡す条項を入れておくと安心である。
社内では、方法論別に調達量の上限を決めておくとよい。特定の種類に評判の傷がついても、影響を抑えられる。価格の下落を期待して先送りするより、初回の発行量が見えるまでは小口で試すほうが現実的だ。
日本企業の接点は購入だけではない
日本のGX(=脱炭素に向けた経済改革)の制度やJ-クレジットでは、海外クレジットの扱いが制度ごとに異なる。豪州のACCUを自社の目標に使えるかは、使う枠組みの最新ルールで必ず確認すべきだ。
購入以外の接点もある。衛星画像や航空レーザー測量で森林の炭素量を測る技術、山火事リスクの評価、データ管理のソフトは、州政府や検証機関が必要とする分野である。商社や金融機関には、州政府の事業に早く関わり、将来の購入枠を確保する道もある。
最終版の公表前後で確認したい三つの点
一つ目は、方法論の最終版がいつ公表され、条件がどう解除されるかだ。二つ目は、ベースラインと公有林の伐採終了政策の関係がどう整理されるかである。三つ目は、最初の発行量と価格の反応だ。この三点を調達会議の確認項目にしておけば、情報が出たときにすぐ判断できる。天然林のクレジットは評判リスクも大きいため、環境団体の評価もあわせて追う価値がある。